低用量ピルの副作用 -血栓症についてー

低用量ピルはもともと避妊薬として発売され、避妊率が高く、さらに月経困難や月経前症候群を軽減し、子宮内膜症に対しても良い効果があると考えられています。最近では同じ成分の薬剤が月経困難症に対する治療薬として保険認可をうけ、使用されています。この薬剤を低用量ピルとは言わず低用量エストロゲンプロゲスチン製剤と呼ぶことが良いとおもうのですが、この文章では同一の表現としました。
低用量ピルは、その良い面だけが協調され、副作用について述べられていないことが多いのですが、昨年12月にテレビ等で、低容量ピルの副作用による死亡例が取り上げられました。もともとは、朝日新聞の報道によるものです。内容を抜粋すると以下のようなものです。
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「生理痛の治療や避妊でピルをのんだ後に、血の固まりができる副作用によって、この5年間で11人死亡し、重症例が361件報告されていることがわかった。日本産科婦人科学会(日産婦)は緊急に注意を呼びかけたほか、厚生労働省研究班も実態調査に乗り出した。
医薬品の安全を管理する独立行政法人の集計などによると、2008年~13年上半期に、低用量ピル11品目で、血の固まりが血管をふさぐ血栓の重症例が延べ361件、副作用として報告されていた。死亡は11件で10代1人、20代2人、30代4人、40代1人、50代2人、不明1人だった。」
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この報道後、昨年12月27日に日本産婦人科学会がそれに対する見解を発表しました。(http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20131227.html)。要約すると以下のようになります。
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女性ホルモン剤服用中の女性を対象とした静脈血栓症発症の実態については、現在、厚生労働省研究班で調査中ですが、事態の緊急性に鑑み、日本産婦人科学会は、以下の見解を発表します。
1.低容量ピルの有益性は大きいが、有害事象として頻度は低いですが静脈血栓症などもあります。
2.海外の疫学調査によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発表のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対して、低用量ピル服用女性では3-9人と報告されています。一方、妊娠中および分娩後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、それぞれ年間10,000 人あたり5-20 人および40-65人と報告されており、妊娠中や分娩後に比較すると低用量ピルの頻度はかなり低いことがわかっています。
3.カナダ産婦人科学会によると、静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されています。
4.低用量ピルの1周期(4週間)あるいはそれ以上の休薬期間をおき、再度内服を開始すると、使用開始後数ヶ月間の静脈血栓症の高い発症リスクを再びもたらすので、中断しないほうがよいといわれています。
5.喫煙、高年齢、肥満は低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクが高いといわれており、注意が必要です。
6.欧米では、静脈血栓症の発症は以下の症状(ACHES)と関連することが報告されていますので、低用量ピル内服中に症状を認める場合には医療機関を受診して下さい。
A:abdominal pain (激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye / speech problems(見えにくい所がある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み・むくみ、握ると痛い、赤くなっている)
低用量ピルおよびその類似薬剤の有益性は大きく、女性のQOL向上に極めて効果的であります。しかし、一方で静脈血栓症という有害事象もあります。低用量ピル内服中の静脈血栓症の発症頻度は低いものの、一旦発症すると重篤化するケースもありますので、服用中に上記の症候がみられた場合は、ただちに服用を中止し、処方元の医療機関を受診してください。早期の診断、治療により重症化を防ぐことができます。
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以上です。ただ、静脈血栓症の診断は簡単ではなく、いろいろな所で診断がつかなくて、循環器専門の所で診断がつくと言う講演を循環器の先生から聞いたことがあります。血液検査で陰性であれば、静脈血栓症ではないという検査があるのですが、予想できるものではないので、そうなると少しでも疑われる場合は内服を中止するのが、一番でしょう。
昨年10代と20代の2名の死亡例があり、大きく報道されたヤーズと言う薬剤に限り確率計算をしてみましょう。ヤーズ配合錠の販売メーカによると、推定142,636婦人年に使用され、血栓閉塞症発現例が87例とされていますが、その後その期間の死亡例が1例追加されましたので、88例の発症となります。 これを計算すると1万人に対して6.2人の発生となります。これは今まで言われてきた日本のピルによる発生率よりかなり高いものです。ヤーズのみ高いのか、他の薬剤も今まで考えられてきた割合より高いのか、この点は厚生労働省の調査を待っての評価となります。日本人は通常は外国より通常低い静脈血栓症の発生率が、ピル内服により高くなる割合は外国より高いということがあるのかどうかは、大事な問題です。日本産婦人科学会が妊娠中と産後の血栓症の発生率と比較しているのは、低用量ピルは避妊用と言う考えと妊娠というのが生理的状態だからだと思います。妊娠した時のリスクより決して高率にはならないのですから、危ない薬という訳ではないと考えますが、サプリメントのようなものではないのです。
また、報道の死亡例の打ち明けを見ると40代1名と50代2名となっております。本来、40代以上は慎重投与とされていますので、投与症例は多くないはずですので、死亡発生頻度は高くなると思います。これはホルモン補充療法に低用量ピルを使用するという考えに大きな疑問をつきつけるものです。この問題は添付文章に慎重投与となっているにもかかわらず、日本産婦人科学会でクリニカルディベートと言う議論となったテーマでもあります。本来ホルモン補充療法に使用されているエストロゲンと低用量ピルに使われるエストゲンは、種類が異なりますので、リスクが違い、低用量ピルの方がリスクは高い筈なのです。ですから、更年期障害や月経不順で低用量ピルを使うのには、保険適応があるかどうかだけではなく、疑問を感じます(少なくとも患者さんに説明すべき内容だと思います)。まさか、婦人科医であれば、この違いは知っていない方はいないはずですが。
このピルによる血栓症と言う病気はどんな病気でしょうか。

静脈血栓症の機序

静脈血栓症の機序

血管内に血栓が形成され、各種の臓器における血流が閉塞する病気である。血管内で凝血(血栓)が生じ、その後凝血塊は形成された血管内皮から遊離し、血管内を流れて塞栓となります。この塞栓症とは血栓形成とその主な合併症である塞栓症をあわせたものが、血栓塞栓症であります。 塞栓の状態では血管内腔の面積の75%以上を血栓が占めると、組織に供給される血流が低下し、酸素供給の低下(低酸素症)および代謝産物である乳酸の蓄積に伴う症状が現れる。さらに内腔の90%以上が閉塞すると完全な酸素喪失状態になり、その結果細胞死の状態すなわち梗塞となります。静脈血栓症のみではなく、心筋梗塞、脳梗塞なども、ピル服用によって確率が上がります。そしてこれらの疾患は、年齢や喫煙歴、高血圧などによりそれぞれ確率がことなり、それについては2000年の日本産婦人科学会雑誌に掲載されてます。
薬で副作用のないものはありません。ピルによる血栓症の副作用は確率的に非常に低いものです。リスクのある人はやはり別の方法を考慮した方が良いのでしょう。今服用しているひとで、症状がない人はむやみに中止するのも考えものです。日本産婦人科学会の見解にありますように、一度服用を中止して、再開した時の方が血栓症の発生頻度が高くなるとのデーターがあります。早く統計データーが発表されると良いと思います。

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低用量ピルの副作用 -血栓症についてー” に対して1件のコメントがあります。

  1. 黒草黒美 より:

    血栓症に呈する疑問が氷解しました。ありがとうございます。
    質問してもよろしいでしょうか。排卵後はプロゲステロンの時期になることから誰もが多かれ少なかれエストロゲン分泌が減ると思いますが、私は特にその減りが大きい体質で黄体期の無気力に長年悩んでいました。40歳近くなってからは一層ひどくなり、排卵後は生理まで何もできず微熱で頭もぼんやりしていました。(生理は常に規則的でした。)それで43歳からピルを服用し、快調な毎日を手に入れて1年半になります。しかし、同じエストロゲンでもHRTならピルのような血栓症のリスクがあまりないとの記述を拝読し、そのような治療も可能なのかどうか質問させていただきたいと思いました。HRTというと更年期障害が出ている人がやるものというイメージがありますが、私はそれがなく、又、症状は15歳からずっと続いています。それでもHRTの対象となるでしょうか。又、その場合、充分足りているプロゲステロンも補充させられてしまうのでしょうか。更年期でなく15歳から続いている症状に対し、HRT治療をして下さる病院があるとすれば、どのように探せばよいでしょうか。
    宜しくお願い致します。

  2. koizumi より:

     コメントありがとうございます。コメントの主旨と外れてしまうかもしれませんが、誤解があると思いますのでお読みいただけますでしょうか。排卵後エストロゲンは問題になるほど低下しません。月経期が最も低値です。さらに月経がある方が低用量ピルを服用すると、エストロゲン値は排卵がある場合より低下しています。ですから、今ピルにより快適な生活が得られているのであったも、それはエストゲン量が増加しているわけではない筈です。ちなみにHRTはホルモン欠乏状態への追加ですから、ホルモンが通常量以上に分泌している人に行う訳ではありませんし、長期投与による弊害は最近報告がいくつかされております。
     PMSにおける低用量ピルの投与の狙いは排卵抑制により、ホルモン値の上昇を抑制し、また、その変動を少なくすることを目的とします。ここからは私見ですが、PMSと考えられているものの中には普段からあって、それが悪化している状態が少なくありません。特に気分不快、脱力などは診断が難しいものがあります。アメリカでは抗うつ剤が使用されることが多いようで、いくつかの薬の適応が認められています。
     以上ですが、現状の低用量ピルをHRTに置き換えることはできません。また、一度休薬して再開するのはリスクが高いので、処方されている医師とよくご相談下さい。

  3. あかり より:

    すこし前の記事にコメントすみません。非常にわかりやすく納得しながら読ませて頂きました。
    高年齢で血栓症のリスクが高くなるということはよく聞いていましたが、最近一部の婦人科の女性の先生方が盛んに、プレ更年期対策としてのピル服用を喧伝しているのはそれと矛盾している気がしています。
    ある程度リスクがあると分かっていることを、わざわざリスクの高い層に勧めているのでは?副作用の死亡事例もそれと関連なきにしもあらずなのではと。もしよかったらご意見お聞かせください。失礼しました。

  4. koizumi より:

     プレ更年期というものがいかなるものかも問題でしょうが、それにピルを投与しましょうということ自体が、副作用まで考察したデーターに基づいていないと思います。この辺りは、実は書いた文章があるので、過激なものなのでお蔵入りしております。私はそういう使用法はしておりません。逆にそれを推奨している先生たちが、この状況にコメントすべきかと思います。

  5. 恭子 より:

    私も低用量ピルマーベロンを飲もうと思っているんですがなかなか処方してくれません❗ 一度試しに閉経近くまで飲んでみようと思っています❤

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